初めてレンを見た時、上擦った声を抑えるのに必死だった。 マスターに弟だと紹介されてこの胸に湧き上がった感情は、とても家族の情愛と呼べるようなものではなく、もっと激しく獰猛なもの。 簡単に言ってしまえば、俺は弟だというこの小さな男の子に欲情したのだった。 しかし、この思いは許されない。 こんなに歳の離れた、しかも、自分と同じ性を持つ存在に、抱く感情では決してない。
「よろしく、レンくん」
努めて平静を装って差し出した手をレンがおずおずと握り返す。 まだ柔らかなその掌。 見上げる視線が不安そうに揺れる。
「よろ、しく」
唇から紡がれた声は頼りなげに掠れていた。

昼間、マスターに今日のレッスンは夜にしようと言われて何の疑問も抱かずに頷いた。 約束の時間にスタジオにしている一室へ向かう。 この家のスタジオは歌い手が集中できるように、マイクのある部屋とコントロールルームがマジックミラーで仕切られている。 そこには必要最低限の機材の他には何もない。 その現実から切り離されたような一室で、俺たちは誰かの視線や時間を気にすることもなく、歌うこと、それのみに集中できるようになっている。

そう言えば、俺の前はレンがレッスンだと言っていたな、と考えながらスタジオのドアを開く。 開いたドアの隙間から最初に誰かの背中が目に入った。 ああ、まだ使っているんだな、そう思ってドアを押し開け、目の前に広がった異常な光景に言葉を失う。
「…な、…」
マスターの足元に惜しげもなく肌を晒した裸のレンが跪き、その股間に顔を埋めている。 そそり立った一物に赤い舌を這わせぼんやりとした表情で一心に唾液を絡める。 音でもしそうなほどに一気に体から血の気が引いた。 目の前が暗くなる。 開いたドアにもたれ掛かって倒れ込みそうになるのをなんとか堪えた。

これは、何なんだ。 薄いガラスの向こうで繰り広げられるのは悪夢としか思えない光景。 あられもない格好でマスターの性器を咥え込むレンの繁みも生え揃っていない股間では、控えめに主張する性器が小さいながらも上を向き、苦しげに先端から透明な涙を零している。 マスターが一心に口淫に耽るレンの頭を撫で、何事が話しかける。 完璧に防音の整ったこの環境では何を言っているのか聞きとることはできない。 唯一向こうとの音を拾えるヘッドフォンを付けて二人の声を聞く勇気はなかった。 レンはマスターのモノを頬張ったまま目だけを上向かせ頷くと、音がしそうな程に根元から先端まできつく吸い上げ口を離す。 そうして唾液でべたつく口元を手の甲で拭うと、俺が間抜けに立ち尽くすマジックミラーの真向かいにやって来て、両手をついてマスターに下半身を突き出す。 目の前にあるレンの顔は、俺の知らないオトナの顔で眉を寄せる。 右手だけを後ろに伸ばして、恐らくレンは自分の秘部マスターにを曝け出した。 レンの唇が、動く。

『 い れ て 』

マスターがレンの腰を掴んで引き寄せた。 レンの顔が歪む。 見開かれた目。開きっぱなしの口。 俺の耳には届かない嬌声。 妙な静寂だけが俺の体を支配する。 レンがもがくように鏡越しに爪を立てる。 上気した頬。潤んだ瞳。 触れることのできない熱。

気が付くと痛いくらいにソコを反応させてしまっていた。 瞬時に頬が熱くなる。 情けなさと後ろめたさで頭がガンガンする。 顔を上げると切なげに眉を寄せるレンと視線が絡む。 向こうからこちらが見えるはずがないのに、レンの目は正確に俺を射抜く。
「…っ」
弾かれたようにその場を後にした。

「く…」
部屋に戻って収まるはずもない熱を持て余す。 激しい自責の念に駆られながらも手を伸ばす。 数回扱けばすぐに頂上へ登りつめる。 脳の中であの細い体を幾度も幾度も汚した。
「レ、ンくん…!」
掌に吐き出した欲の塊は後悔と背徳を孕んでいた。 どこか頭の片隅で何かがガンガンと鳴り響いていたけど、もう何も考えたくなかった。 ただ、ひたすらに何もかもが悲しくて仕方なかった。