「いつまでも一緒にいられたらいいのにね」
隣りで眠るリンは言った。 そっと目を開けると暗闇の中にリンの影がぼんやりと浮かぶ。
「一緒にいるじゃん、リン何言ってんの」
リンは少しだけ体をずらすと横を向いて目を開ける。 暗い中で視線がぶつかる。 怖いくらい真剣な目でリンがオレを見る。 なんだか嫌な予感に苛まれてリンが次のセリフを口にする前にオレは目を閉じた。
「…リン、ごめん。もう眠い」
「…そっか、おやすみ、レン」
「うん、おやすみ」

ずっと昔から二人で使っているベッドはいつの間にかオレたちには小さくなりすぎていて、いつもリンとオレは狭いベッドで身を寄せ合う。 寝返りを打てば互いの肩が触れ合い、欠伸を漏らせば吐息が頬を擽る距離。 手を伸ばせばそこにリンがいるのは当たり前だったし、ここなら怖い夢を見たリンの頭を撫でてやることだってできる。 ここはオレたち二人だけの小さな船。 誰にも邪魔されない、二人だけの楽園。 それなのに、なんでそんなこと言うんだよ、リン。

「…いつまでも子供じゃいられないのよ」
闇の中、リンが呟いた言葉に気が付かない振りをして寝返りを打った。

朝、目が覚めるとリンはもうベッドにいなくて、開けられたカーテンから遠慮なく差し込む光が空っぽになった隣を煌々と照らしていた。
「リン…?」
嫌な予感がずるずると背中から這い上がってくる感覚にオレは思わず身震いを落とす。 ベッドカバーを跳ねあげるとシーツに出来た赤黒い染みが朝日に照らされていた。 そっと指先で触れるとすでに乾いたそれはぽろぽろと剥がれた。 その時、派手な音を立ててドアが開けられる。
「触んないで!」
振り向くと真っ青な顔をしたリンが立っていた。 つかつかとベッドに歩み寄るとリンはオレをベッドから引きずり降ろそうと強く腕を引っ張る。 なんだよ、と怒ろうとしてリンが泣いていることに気が付いた。
「…な、んで泣いてるんだよ」
「レンには…わかんないよ」
呆気に取られているオレを尻目にリンは手早くシーツを剥ぎ取る。 真っ白なシーツを両腕で抱え込んでリンはまた言った。
「レンには一生わかんないんだ」
そうして、またぱたぱたと涙を零した。 頬から伝わる雫がシーツに広がり、じわりと染みを作った。

その日からリンとオレは別々の部屋で別々のベッドで寝るようになった。 いつも隣にあった温もりがなくなって、なんだか体の一部が欠けたみたいだった。 一度だけリンに聞いたことがある。
「もう一緒に寝ないのかよ?」
リンはひどく寂しそうな顔をして大人みたいに笑った。
「…もう、オトナだからね」
リンの『おとな』の発音は抜けるように軽やかで、オレはようやく楽園の崩壊を知ったのだった。

(所詮オレたちは違う生き物なのだった)