何が望みかなんて決まってる。 そんなのいつだって一つしかない。 レンをあたしのものにしたい。 それだけだ。 レンが居ればあたしの世界は完成する。 レンが全て。レンだけがあたしの全て。 レン、レン、あたしのこと、見てよ。

「何を望んでるの」
そう問われて一瞬頭が真っ白になった。 真っ白になった頭に唯一浮かんだのはレンをあたしのものにしたいという暴力的な願いだけ。 誰になんと言われようと、他の誰かにレンをとられるくらいなら死んだ方がマシだ。 この執着が歪んでいることなんて、あの女(ひと)に指摘されるまでもなく気付いていた。 気付かない振りをして、レンにも気付かれないように自制して、それでも歪なこの感情は心の奥からマグマのように熱く熱く噴き出してくるのだった。

徐にベッドから降り立つ。 爪先を乗せた床が軋んだ。 レンは一瞬身構えたけど、動かずにあたしの挙動を見守る。 裸足のまま床に立つと目の前にあたしとよく似たレンの顔があって、まるで鏡みたいだと思った。
「リン、どうし・・・」
「黙って」
口を開いたレンを遮ってゆっくりと顔を近付ける。 本能的に身を引いたレンの頭を両手で固定して無理矢理に唇を合わせた。 歯が当たって嫌な音と共に口内に広がる血の味。 呆気にとられたレンが慌ててあたしを引き剥がそうと腕に力を込めて押すけれど、あたしはそれでも口付けと呼ぶには余りに荒々しい行為を繰り返した。
「リン…っ」
あたしの名を呼んだ隙に舌を差し込んだ。 レンの柔らかな舌とあたしのそれが意図せず絡む。 滑る唾液の感覚に体は打ち震えた。 必死に両腕に力を込めてしがみつく。 夢中で唇をぶつけ合ううちにレンがバランスを崩して床に倒れた。 レンの上に馬乗りになって更に口付けを繰り返す。 どちらのものなのか、唾液は濃い血液の味がした。

柔らかな白い頬を両手で挟んで唇を噛む。 体中に歓喜が満ちた。全身がレンを欲していた。
「レン、レン、好き、だよ、レン!」
幾度も唇を啄むうちに、鼻をすする音が聞こえてきて顔を上げるとレンの両目からは涙が零れていた。
「どうして泣いてるの?」
零れた涙を舌で掬う。 塩辛い粒はあとからあとから溢れてきりがなかった。
「リン…こんなの、ダメだ…おかしいよ…」
嗚咽に塗れながらレンが必死で言葉を紡ぐ。 だけど、あたしはレンの言っている意味がわからなくて、それどころか泣いているレンにすら気が狂いそうな程に興奮して、気がついたら声をあげて笑っていた。
「あははははは!何言ってるの!ダメなわけないじゃん!あんたまであの女と同じこと言うの?」
一瞬、ピンクベージュのきれいな爪が脳裏に浮かんだけど、しゃくりあげるレンの声にすぐに掻き消された。

「レン怖い?あたしが怖いの?」
泣きじゃくるレンを余所に体をずらすとレンのベルトに手を掛けた。 不思議と何をどうすればいいのかは体が知っていた。 あたしはこの体が動くのに任せていればよかった。 取り出したレンの性器は既に堅くなり始めていて、それがあたしには堪らなく嬉しかった。
「…リン、もうやめてよ…」
力なく呟いたレンを見上げてあたしは笑った。
「だってレンも気持ちいいんでしょ?」
そそり立ったそれに頬を寄せながら自分の下着を片足から抜いた。 体が命ずるままにワンピースをたくしあげてレンの上に跨がる。 見下ろしたレンは固く目を閉じて、少し震えているように見えた。 躊躇わずにレンを体の中に受け入れていく。 ようやく最後まで埋まったときに頭の片隅で何かが割れた音を聞いた気がした。 だけど体が熱くてそれどころじゃなくて、あたしは自分の頬を濡らす涙に気付かない振りをして夢中で腰を動かす。

「もう、戻れないんだから」
唇から言葉が零れ落ちるみたいにひとりでに出てくる。
「もう、戻れないんだからね、あたしもあんたも」
あたしの声なのに、それはどこか遠くで響いているみたい。
「一人になんかしたら許さない」
まるで水の中に居るみたいに鼓膜が揺れた。
「死ぬ時は一緒に死のうね、レン」
ぎりぎりまで引き抜いた体を一際激しく落としてレンを呑み込む。 固く目を閉じたままレンが頷くように首を動かした気がした。

(あたしとレンを引き離して産み落とした神様が悪いのよ)