夜中、ソファに座ってぼんやりと雑誌を読み耽っていると、不意に階段が軋む音がして顔を上げる。
静かに、音をさせないように、ドアが押し開かれてレンが向こうから顔を出した。
リビングの明かりに戸惑うように目を細めて片手でごしごしと目を擦る。
俺の顔を見てレンはきまり悪そうに俯くとパジャマの裾からのぞく裸足をぺたぺたと鳴らして入ってきた。
「どうしたの?レン。眠れない?」
読みかけの雑誌をテーブルに置いて腕を伸ばす。
レンはそのまま素直に胸の中に入ってきてきゅ、としがみ付いた。
少しだけ寝癖のついた頭を撫でてあげると顔を上げる。
「うん、ねむれない。カイトは何してるの?」
未だぼんやりと焦点の合わない目で見上げて問う。
ゆっくりとしたリズムで背中を擦ってやりながら答えた。
「雑誌を読んでただけだよ。ホットミルク作ろうか」
うん、と頷くレンをソファに座らせてキッチンへ向かう。
浅いパンを取り出して火に掛けると中を牛乳で満たす。
パンの中でひたひたと白い波が立つ。
沸騰する直前で火を止めて、レン用の小さなマグカップに中身を移した。
ゆっくりと立ち上る湯気と辺りを満たすほのかな甘い香り。
クッションを抱きかかえてうとうとと舟を漕ぐレンの頬をつまんでカップを手渡した。
「はい、熱いから気をつけて」
聞いているのかいないのか、レンは微かに首を動かすとマグカップに口をつける。
「…あつッ」
すぐに目をいっぱいに開いて口を離した。
「だから熱いって言ったのに」
たしなめるようにそう言うとレンはぷうと頬を膨らませる。
マグカップを片手にべ、と舌を出した。
「いたい、ヤケドしたかも、見て。カイト兄」
女王様然としてふんぞり返るレンに思わず苦笑を浮かべる。
丸みを帯びた顎に手をかけ上向かせた。
仄赤い室内灯の下でレンの舌先がなまめかしくちらつく。
ちらりともぶれない視線に微かにたじろぐ。
まっすぐにぶつけられる瞳の強い力に気圧されて、負けじと暴力的な衝動が胸の内で暴れる。
ごくり、と自分でも恥ずかしいぐらいの大きな音を立てて喉が鳴った。
「…っ、大丈夫、少し赤くなってるだけだよ」
無理やり顔を逸らして、引き剥がすように視線を外す。
レンが小さく溜息を吐いた。
「あ、そ。つまんない。…もう寝る、おやすみ。ありがと」
そう言うと俺にマグカップを押し付け、ぴょんとソファから飛び降りてリビングから出て行った。
残されたマグカップにそっと口をつけ独りごちる。
「・・・間接、キス・・・か」
思わず部屋いっぱいに広がる溜息が零れた。