「先輩ンちの麦茶飲みたい」
御柳が突然そう言って、断っても断っても纏わりついて離れないので部活の帰りに俺の家に寄ることになった。 薄暗い部屋の中で、小さなちゃぶ台にグラスを置いて麦茶を注いでやる。 御柳はなぜか子供のように瞳を輝かせながら満たされるグラスを見詰めていた。
「妙な奴だな」
ごくごくと喉を鳴らして御柳がグラスを干す。 ぐい、と手の甲で口元を拭って笑った。
「そう?だって先輩の麦茶美味しいんだもん」
「…ただの麦茶パックだ」
「ちげーよ、そうじゃなくて。先輩ンちで先輩と一緒に飲むから美味いの」

御柳の言うことはいつも意味が分からない。 こんなどこにでもあるようなもので、とても幸せそうな顔をする。 基本的に言葉足らずなのだ、こいつは。 思っていることの半分も口にしてはいないのだろう。 だから周りの人間は混乱するし、振り回される。

「はは、先輩変な顔!」
視線を上げると御柳が俺の顔を指差して笑っていた。
「人を指差すな、と教えなかったか」
「だってー!はは、あ、もう一杯ください」
はい、とグラスを差し出す。 注いでやると、また子供のように顔を輝かせた。 そして「屑桐さんちの麦茶はおいしいなぁ」などと呟くのだった。