「どうした?」
ふと気配を感じて目を開けると御柳が上半身だけを起こして虚空を見つめていた。
こちらの問い掛けに答える風もなく御柳は食い入るように宙を見詰め続ける。
右手を伸ばして頭を抱えると抵抗もせずにすんなりと腕の中へと入った。
くぐもった声を出して御柳は言った。
「いま、遠くに行っちゃいそうだった。」
大丈夫だ、と言うように頭を撫でてやるとおやすみと呟いて御柳は動かなくなる。
一定のリズムを刻んで背を撫でている内に俺も再び瞼が重くなってきた。
人間は温かい、などとよくわからないことを考えながら眠りに就いた。
目が冷めて、すべてが夢だったことに気が付いた。 抱いた体も撫でてやった背も柔らかな暖かさもすべてが夢だったことを思い出した。
もう、二度と戻らない日々に名を付けるとすれば、それは夢である。 俺はあの日からずっと同じ夢ばかりを見ている。
はらはらと、俺は泣いた。 夢の中で生きたいと思って泣いた。 御柳と生きたいと心から願って泣いた。
しかし、叶わないと知って、はらはらと、俺は、泣く。