帥仙さんは高校を卒業して割りと手堅い私立の大学に入った。 二軍のエースという屈辱的な肩書を背負ったまま部活を終えた後、彼はひたすら勉強に励んだ。 邪魔をする目的で図書室に遊びにいくといつも難しい顔をして難しそうな本を読んでいた。 何を勉強しているの、と尋ねるといつも決まっていろいろ、と返されたから、帥仙さんが無事大学に進学した今、何をしているかは知らない。 ただ、時々遊びに行った帥仙さんの部屋の本棚には医学関係の本が並んでいたから、もしかしたら将来お医者様にでもなるのかもしれない。
帥仙さんとは彼が卒業した後も惰性のように時々会ってやることはやっていたけど、段々とそういう機会も少なくなってきて、いつの間にか連絡を取らなくなっていた。 寂しいとは思わなかったけど、時々ふと帥仙さんの香りを思い出したりした。
俺はと言うと高校で唯一力を入れていた野球も二年の後半あたりから煙草の吸いすぎで体力が付いていかず、追い討ちをかけるように最悪のタイミングで教師に喫煙場面を見つかり停学になったことをきっかけに皆よりも早い引退を決意した。 特に感慨も無かったが、墨蓮が泣いていたのにはちょっとだけ笑った。
卒業後はろくに勉強もせずに入れる金ばかりがかかる私立大学に進んだ。それがつい数ヶ月前のこと。 入学して一ヵ月もすれば大学の仕組みなんてほぼ理解できたから、梅雨の頃にはもう学校に顔を出さなくなっていた。 その日もぷらぷらと街の中を目的もなく彷徨っていると、寂れた喫茶店の前に懐かしいタンデムが停まっていた。 視界に入れた瞬間、心臓が跳ね上がり目眩を起こす。 思わず近寄ってバイクの冷たい体を撫でた。 指先からあの一年間の記憶が蘇ってくる。 脳内を駆け巡る思い出に翻弄されながらも、このバイクの持ち主が帥仙さんであるわけがないとどこかで思っていた。 そんな悪魔に憑かれたような幸運があるはずない。
「…芭唐?」
しかし、名を呼ぶ声に振り返るとそこには愛しい面影を残した帥仙さんが立っていたのだった。
俺たちが互いを求めることは摂理だった。あの6月のじっとりと汗ばむ空気の中、一瞬視線が絡まった瞬間にもう互いの中に抑えようのない欲望が渦巻き始めたのだ。 帥仙さんがバイクを吹かして「乗れ」と言った。予備のヘルメットを受け取って素直に帥仙さんの後ろに乗り込む。そのまま、マンションになだれ込み貪るように終わりのないセックスを繰り返した。 そう、昔みたいに。