鞭のしなる音、次の瞬間には背中を焼けるように熱い感覚が走る。 繰り返し、繰り返し空気を裂く渇いた音が鼓膜に届いて、その度に背中に熱が弾けた。 帥仙さんがぴんと張った美しい鞭を手に取ると俺はいつでも従順な犬のように帥仙さんの足元に這い蹲い背を差し出す。 帥仙さんの左手が軽やかに宙を舞う度に 空気が揺れて、俺は条件反射のように身体を弛緩させた。 強張った肌では革の勢いを十二分に受け入れてしまうのだ。 脱力した皮膚に鞭が美しい線を描いてい く。お前の傷が愛しい、と帥仙さんはことあるごとに口にする。
初めて帥仙さんの鞭を受けたのは再会して間も無くの頃だった。
それは彼の暮らしていた小綺麗なマンションの寝室にやけに似つかわしく飾られていた。
磨きあげられたケースの中に美しい装飾品のように置かれたその鞭は不気味な光を放ちながら異様な存在感を誇っていた。
「どうしたんすか、これ。」
「あー…スペインに行った時に、な。自分の土産に買ってきた。」
「ふーん。…使ったことあんの?」
ガラスの角を指でなぞる。ベッドに腰掛けた帥仙さんは掠れた声でいや、と答えた。
「使って、みたくない?」
未だ情事の気配が色濃く残る部屋の中で羽織っただけのシャツをずらし帥仙さんに裸の背を見せつける。
ピリピリとした視線が突き刺さる背中が痛む。
背後で帥仙さんが立ち上がる音がした。
ひやりとした指先が肩をなぞる。耳元でぼそりと囁かれた。
「癖になっても知らねえぞ?」
ガラスケースからそっと取り出された鞭はひどく帥仙さんの手に馴染んでいて、彼が腕を振る度に喜々として空気を裂いた。
帥仙さんの足元に背中を向けて跪き椅子の背にしがみつく。
鞭のしなる音だけが耳を劈く。
手の平にじっとりと汗をかき、緩やかに性器が勃ち上がってきた。
「力、抜いとけよ。」
感情の籠らない声が響いたと思うと次の瞬間音が弾けた。
鞭が空を切る音、続けて肉を裂く音。
不思議と痛みよりも先に妙な間隔だけが体中を駆け抜けた。
熱い、と思った。
「行くぞ。」
すぐに第二撃が打ち下ろされる。
「…っ、!」
そこで漸く焼けるような痛みに悶える。
背中が灼熱に焼かれる。
幾度も幾度も鞭が振り下ろされる度に鋭すぎる痛みが重なる。
「あ、ァ…あつ、い…!あつい、あついよ…帥仙さ、ん…ッ…」
狂気に支配されたその営みは俺が射精するまで続けられ、帥仙さんは果てて倒れ込む俺の背中を冷たい指でなぞりながら自分で付けた傷跡に満足げに微笑むのだった。